古代中国では ” 薬療は食療に届かず ” といわれ、食事で治療できる医者を「上工」と呼び、名医とされたそうです。このような食事治療法を「薬膳」と呼ぶようになったと言われています。
治療薬膳には、中医学理論に基づいて選ばれた生薬や特別な食材が使われますが、病気の予防やちょっとした不調の改善に役立つ薬膳もあります。
家庭薬膳といわれ、スーパーで買える食材を使って、貧血や胃弱、冷え性、夏バテなどの予防やアレルギー症状の緩和、老化予防、美容効果などが期待できる食事です。
例えば薬味といわれるネギやショウガには体を温める作用があり、「葱白(そうはく)」、「生姜(しょうきょう)」と呼ばれる漢方薬の原料になっています。冷えは万病のもとと言われるように、体を温めて冷えを予防することで得られる健康効果は数多あります。
漢方薬の多くは食物から作られていて、他にも漢方薬の原料になっている大根や山芋、れんこん、人参、にら、イカ、シソなどには高い効能が期待できます。これを薬食同源といいます。
身土不二(しんどふじ)という言葉を聞いたことがありますか?生まれ育った土地で暮らし、その土地の作物を食べ、自然の摂理に逆らうことなく生活することを意味し、薬膳ではこの考えを大切にしています。
つまり日本で言えば、北海道ではジンギスカン(羊肉は体を温める)、沖縄ではゴーヤやパイナップル(体を冷やす)がよく食べられたり、旬の食材が体にいいと言われるように、身土不二を取り入れるだけでも簡単に薬膳のような食事になるというわけです!

ここからは、薬膳インストラクター資格取得のために勉強した備忘録です。よろしければご参考にして下さい(^^)/
食性(五性)について
食物は「温性」「熱性」「寒性」「涼性」「平性」の五つの性質に分けられる。
食べることによって、その食物が身体にどう作用するかを表したもの。
大まかに、身体を温めるもの、冷やすもの、どちらでもないものに分けられます。
身体を温めるもの=温熱性食物
食べると身体が温まり、捕益(ホエキ=栄養成分の吸収が高める)や理気(リキ=気のめぐりをよくする)という作用が高まります。内臓の働きが活発になり、血液循環が良くなります。主に寒い季節、寒い地方でとれる食物に多く見られます。
食物例)
穀・豆類:もち米、赤米、米麹
野菜類:紫蘇、生姜、ネギ、玉ねぎ、にんにく、かぶら、かぼちゃ、にら
肉類:羊肉、鶏肉、牛スジ、鶏レバー、豚レバー、鹿肉
魚介類:えび、マグロ、いわし、あじ、ブリ、鮭、あなご
果物:桃、栗、杏子、なつめ、キンカン、ライチ
調味料:黒砂糖、酢、酒、味噌、みりん
お茶他:ほうじ茶、よもぎ茶、紅茶
身体を冷やすもの=寒涼性食物
食べると身体を冷やし、清熱(セイネツ=熱を冷ます)・瀉火(シャカ=炎症を食い止める)という作用が始まります。体内で発生する様々な炎症を抑え、解毒作用もあります。主に暑い季節・暑い地方でとれる食物に多く見られます。
食物例)
穀・豆類:小麦、大麦、はと麦、蕎麦、緑豆
野菜類:なす、大根、きゅうり、セロリ、トマト、三つ葉
肉類:合鴨、馬肉
魚介類:カニ、はまぐり、シジミ、ハモ、昆布、わかめ、海苔
果物:柿、バナナ、梨、スイカ、イチゴ、グレープフルーツ
調味料:白砂糖、食塩、醤油、バター、ごま油、オイスターソース
お茶他:緑茶、ハブ茶、プーアール茶、はと麦茶、コーヒー
どちらでもないもの=平性食物
全食物の70%を占めます。身体を温めも冷やしもしない、平和な性質。
「冷えは万病のもと」といわれるように、あらゆる不調を招く要因です。
食性を知ることで、冷えている人は温めることができ、暑い人は冷ますことができますね。
という訳で体を温めたくて何か飲みたいときは、緑茶よりほうじ茶、コーヒーより紅茶が絶対おすすめです。
陰陽論とは
この世に存在するすべてのものは、「陰」と「陽」に分けられ、対立する2つ要素が互いに作用しあってバランスを保つことで自然界が成り立っていると考える。
これを人体に当てはめると、
【陰/陽】
「下半身/上半身」
「体内/体表」
「鎮静/興奮」
「津液/気・血」
これを食材に当てはめると、
寒涼性は「陰」、温熱性は「陽」に分類されます。
関係性があって、正反対の特徴をもつもの。
「陰」と「陽」の関係は静止することなく、常に動いています。

この「陰」「陽」の関係がバランスのとれた状態が健康と考え、このバランスが崩れることで、病気になると考えられています。
この陰陽のバランスを整えるための食事が「薬膳」です!
「陽」の不調=「陰が不足」している状態
熱っぽい、顔面紅潮、炎症、分泌物が黄色やネバネバ
補陰の性質をもつ食材を選ぶ(温熱性はさける)・・・山芋、黒豆、アスパラガス、オクラ、きくらげ、ほうれん草、いか、牡蠣、アサリ、クコの実、豚肉、卵、チーズ、ヨーグルト
「陰」の不調=「陽が不足」している状態
寒気、蒼白い、四肢の冷え、分泌物が透明やサラサラ
補陽の性質をもつ食材を選ぶ(寒涼性はさける)・・・ニラ、ネギ、らっきょう、ブロッコリー、えび、まぐろ、鹿肉、ウイスキー、赤ワイン
不調が「陰」性なのか「陽」性なのかを知ることで、反対の性質をもつ食材をとってバランスをとり戻します。
この時、一方ばかりをとり過ぎるとまたバランスを崩してしまうので注意が必要です。
五行理論とは
自然界すべてのものを「木(もく)火(か)土(ど)金(こん)水(すい)」の五つに分類した考え方。
それぞれに性質や特徴があり、互いに助け合ったり、抑制しあってバランスを保っています。
その五行を自然界と人体に当てはめた表が「五行属性一覧表」。

季節薬膳では、五季(季節)に沿って、五気(季節の邪気)が五臓(内臓機能)に及ぼす影響を考え、五味五性を考慮して作ることで活用されます。
中医学では、五臓→五腑→五主→五官は経絡によって繋がっていると考えを「帰経(きけい)」といい、目にトラブルがあると「肝」の異常を疑い、鼻にトラブルがあると「肺」や「大腸」に異常がないかも考えます。
・五臓の概略
中医学でいう内臓で、五行理論に基づいて分類されている。
西洋医学の臓器とは少し異なり、モノではなく機能としてとらえる。
「肝」・・・肝臓の機能を含む他、気血の循環、血液の貯蔵、運行、情緒や自律神経の調整などに関係する。
「心」・・・循環器系の中心で、全身に血を配るとともに体温を調節や、精神・心理にも関係する。
「脾」・・・消化器系で「脾臓」とは別物。消化吸収機能、栄養代謝、気血津液の生成、統血(血液が脈外に漏れないように運行させること)に関係する。
「肺」・・・皮膚機能を含む呼吸器系と、気の生成や調整、水分代謝にも関係する。
「腎」・・・腎臓の機能を含む他、成長・発育・生殖といった人体発育を担い、水分代謝、呼吸にも関係する。老化はこの腎機能の衰えから始まる。
五行関連図

この五つのシステムは、互いに生み出し(相生)、互いに抑制しあう(相克)関係でバランス保つことで正常に機能します。
・五味の働き
酸味=すっぱい(レモン・梅など)
「肝」が欲する=気や汗を止める。免疫力を高める。下痢を止める。
苦味=苦い(ゴーヤ・緑茶など)
「心」が欲する=熱を冷ます。炎症を抑える。解毒作用。余分な水分を出す。
甘味=甘い(じゃが芋・大豆など)
「脾」が欲する=疲れをとる。消化吸収システムを高める。痛みを止める。滋養強壮。
辛味=辛い(大根・ネギなど)
「肺」が欲する=気血のめぐりを良くする。老廃物を汗として出す。外邪を発散させる。
鹹味(カンミ)=塩からい(昆布・えびなど)
「腎」が欲する=しこりなどの硬いものを柔らかくする。便秘などの老廃物を出す。
五味と五臓の関係図

この関係も五行関連図にあてはめ、互いに生み出し(相生)、互いに抑制しあう(相克)関係でバランス保つことで正常に機能します。
五味はこんな時に活躍しますよ!
お酒は辛味に属し、飲み過ぎると相克の関係で「肝」を克す(傷める)ので、酢の物など酸味のものを食べることで調和がとれます。
お馴染みのカレーにらっきょうは、辛味と酸味なので調和がとれているわけです。
「胃(脾)」の弱い方は、甘味を摂るとよいのですが、この甘味は砂糖の甘味ではなく、イモ類や豆類など食物の甘味をさします。
ですので、ケーキなどを摂り過ぎると逆に「胃(脾)」を傷め、老化と深く係わる「腎」を克してしまいますので要注意です。
・五過の症状
五味を摂りすぎると現れる悪い症状を「五過」といいます。
五行理論の「相克」の関係に基づき、五臓の経絡にも悪影響が表れます。

酸味を摂り過ぎると
「脾」を克す=肉が委縮して唇が渇く。汗をかきにくくなる。
苦味を摂り過ぎると
「肺」を克す=皮膚がカサカサになり体毛が抜ける。身体が冷える。
甘味を摂り過ぎると
「腎」を克す=骨が痛み、髪の毛が抜ける。身体がだるくなる。むくみ。
辛味を摂り過ぎると
「肝」を克す=筋が引きつる。爪が割れる。汗が出すぎる。怒りっぽくなる。目のトラブル。
鹹味を摂り過ぎると
「心」を克す=血液が粘り脈行が悪くなる。顔色のツヤが悪くなる。動悸。むくみ。
気・血・津液について
人体を構成する3つの要素と考え、これらが全身を巡ることで生命活動を維持していると考える。
「気」=目には見えない、生命を維持するためのエネルギー。
「血」=体に栄養を与える血液とその働き。
「津液」=血液以外の体液。唾液・汗・リンパ液・髄液など。
陰陽に分類すると…
「陰」=物質=身体自体やその滋養成分=血・津液
「陽」=機能=臓器の働きや、動く能力=気
これら気・血・津液は、主に飲食から作られ、充分に全身を巡ることで健康が保たれる。
薬膳を組み立てる際に、体質診断の軸となります!
参考文献
- 薬膳インストラクター(中級)テキスト/NPO法人 全日本薬膳食医情報協会
- 薬膳教本/著.岡本清孝
- 現代の食卓に生かす「食物性味表」/監修.国立北京中医薬大学日本校
- 全訳中医基礎理論/中医薬大学全国共通教材
- 東方栄養新書/著.梁晨千鶴
- 東洋医学の教科書/監修.辰巳洋
- 薬膳・漢方の食材帳/監修.薬日本堂
- 女性のための漢方生活レッスン/監修.薬日本堂
- いつもの食材(漢方)効能&レシピ帖/著.早乙女孝子
- 旬の野菜と魚の栄養辞典/監修.吉田企世子
- 食事と栄養の教科書/監修.本多京子
- 西太后のアンチエイジングレシピ/著.坂口珠未
- 幸福薬局の若返り薬膳レシピ/著.幸井俊高・幸井由紀子
- 薬膳レシピ12か月/著.幸井俊高・幸井由紀子(←おすすめ)
- 12か月の薬膳レシピ/著.青山有紀
- 「青家」のごはん/著.青山有紀(←おすすめ)
- 聘珍樓のいちばんやさしい薬膳/著.聘珍樓薬膳部
- 作りおき薬膳/監修.武鈴子
- 薬膳美人/監修.杏仁美友
- うつくし薬膳/監修.杏仁美友
- 体を整える食事術/監修.杏仁美友
- 女性力を高める薬膳ごはん/監修.邱紅梅(←おすすめ)
- 海辺暮らしの季節のごはんとおかず/著.飛田和緒
- 私は漢方美人/遠野かず実(←マンガでわかりやすい!レシピ本ではない)
- 体を整える薬膳スープ/植木もも子